スミスは映画を観るそうですよ

だいぶマイナーな映画のレビューを上げていきます。

コメディゾンビ映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』

f:id:ribakun:20211201235312j:plain

 一九八六年、今から半世紀以上前に公開された一本の映画がある。その名は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』。ジョージ・A・ロメロ監督によるこの一本のフィルムは、「ゾンビ映画」の原典として我々の頭上に天高く輝いている。

そして優れた典型は多くの類型を生み出した。現にそれ以降、手を替え品を替え有象無象のゾンビ映画が作られている。正当なパニックホラーとして作られた日本発の『バイオハザードシリーズ』は、今や一大コンテンツとなった。

そんな中、今回紹介するショーン・オブ・ザ・デッドゾンビ映画としては珍しいコメディタッチの作品となっている。それでいて真っ当にゾンビを描いた傑作映画だ。

主人公のショーンはとにかく冴えない男だ。勤め先の家電量販店では後輩にさえ舐められ、ガールフレンドのリズとは何の進展もない。それでも親友で同居人のエドとだらだら過ごす日々に満足していた。

だがある日、ショーンはとうとうリズから別れを切り出されてしまった。失意のショーンをなだめるエド。しかしその翌日、更なる悲劇が起こる。彼が目覚めるとロンドンの街になんとゾンビたちがあふれていたのだ……。

ゾンビのタイプはロメロ監督作品を踏襲した、ノロノロ動きのゾンビ達。ショーンが一向に気が付かないまま街中を歩く中で、次々に異常な事態が起きているシーンが不気味で目を引く。

この作品ではゾンビの出現に関する実験や、陰謀などは一切ない。ただ日常が破綻し危険に塗れた世界をサバイブしてゆく様を描く……と言えばかっこいいが、ショーンとエドの生きる世界はやっぱりどこかユルい。時にシリアスな現実を目の当たりにしつつも、繰り出される間の抜けた掛け合いが癖になってくる。そして最後には二人のダメ男の「強すぎる」友情に胸が熱くなることだろう。

オフビートな笑いを巧みに織り交ぜたスタイリッシュな映像は、今作の監督エドガー・ライトの作風が遺憾なく発揮されたものだし、細部には様々なゾンビ映画のパロディが仕掛けられている。そうしたイースターエッグを探すのも楽しみの一つだ。