スミスは映画を観るそうですよ

だいぶマイナーな映画のレビューを上げていきます。

これが僕にとっての『映画』と言うもの〜ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア〜

 その光景が見たいからいまも生きている。

 そう言い切れるほど頭に焼き付いて離れないシーンを見せてくれたのが、『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』だ。

 ストーリーはいたってシンプルだ。とある病院で、死期を間近に迎えた二人の男――マーチンとルディは出会う。同じ境遇の二人は意気投合し、やがて人生の良い終わりのために、病院を抜け出して海を目指す(&そのときに盗んだのが大金を積んだギャングの車でさぁ大変)というもの。

 

 二人が海を目指すのは、マーチンのこんな言葉がきっかけとなる。 

「天国じゃみんな海の話をするんだぜ」

 この作品を象徴する幻想的なセリフからは、人生の最後に誰かと同じ思い出を分かち合いたいという願いが感じとられる。死を受け入れようとする途中段階にあるような心情を表しているようで、リアリティがあって大好きなセリフだ。

 しかし、このファンタジックな質感はあくまで魅力の一つに過ぎない。僕が惹かれるのはそこではなく、感傷的になりすぎない「死」の描き方だ。

 天国の話からすぐ後、二人が病院を抜け出す一連の場面は湿っぽくならない。先程とは打って変わって、軽快なテイストで撮られている。

そこで気付かされるのだが、この旅は死から逃避するためのものではない。ましてや死に抗ってゆくわけでもない。死を否定した先にあるのはバッド・エンドだ。彼らは死を受け入れた先の良き最後――グッド・エンドを自分たちから迎えに行っているのだ。

 海を目指す途中で色なトラブルに巻き込まれ、「死ぬ前にやりたいこと」も叶えようとゆうことになっては、また一悶着起こしたり……それでもあっけらかんと旅を続ける二人の姿は見ていて気持ちがいい。スピーディーな展開と軽妙な会話であっという間に時間は過ぎてゆく。

 そしてあのラストシーンを迎える。二人が旅の果てに行き着く場所、そこには慟哭も悲嘆も無い。ただ寄り添う二人の姿と曇り空と海。淡々と流れるその光景の美しさは、何度見ても息を呑んでしまう。

 いつも見終わった後には静かな感動が波のように引いて、元気が湧いてくる。

 二人が見ていた天国をいつか自分も見るために生きよう、と。